第5章: 成功の高み

トムの目は、静かに点滅するパソコンの画面に釘付けだった。株式市場の数字が緑色の矢印で上昇し続ける中、彼の投資ポートフォリオの価値は目に見えて増加していた。初めての大きな成功だった。彼は感じていた。これは、ただの運ではない。彼の計算と予測が正しかったのだ。自信が満ち溢れる笑みが彼の顔に浮かぶ。

オフィスの雑踏が遠くに聞こえる中、トムはふと我に返った。彼の心は複雑だった。成功の喜びと同時に、時間を忘れて仕事に没頭し、家族と過ごすべき時間を犠牲にしていることへの罪悪感が混じり合う。彼は携帯を手に取り、美紀へのメッセージを打とうとしたが、何を書けばいいのか分からなかった。

その晩、家に帰ると、リビングのテーブルの上に息子光の成績表が置いてあった。トムはそれを手に取り、光が数学で苦戦していることに気づいた。彼はいつの間にか、息子の学業のサポートを怠っていた。トムは深いため息をつき、美紀に向き直った。「今日、ちょっと大きな利益が出たんだ」と言うと、美紀は複雑な表情で「それは良かったわね」と答えた。しかし、彼女の目には以前のような温かみがなかった。

週末、トムは家族で出かける計画を立てた。彼はこれが、少しでも家族との絆を取り戻すチャンスだと思った。しかし、出発の日、投資クラブからの緊急のメールが届き、大切な会合への出席を要請された。トムは心が引き裂かれる思いだったが、最終的に会合へ行くことを決めた。家族との約束を破ることの重みを感じながらも、彼は成功への執着が自分を支配していることを認めざるを得なかった。

その夜、光と美紀が公園で花火を見ている間、トムは会議室の窓から外を眺めていた。外の世界は色と光に満ちているが、彼はそれから切り離されているように感じた。成功とは何か、そしてその代償は何か。トムは深く考え込んだ。彼は知らず知らずのうちに、最も大切なものを見失いつつあった。

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