ミッドナイト・トレード 第1章(全10章): 夢の取引
東京の夜は別の顔を持っている。昼間の喧騒とは異なり、落ち着いた静寂が都市を包む。しかし、その静寂の中でも、ビルの灯りは夜空を明るく照らし出していた。
アパートの一室、窓際のデスクに腰をかけている佐藤大輔は深い眠りについていた。彼の顔は穏やかで、時折微笑を浮かべることも。その胸の内で、彼はもう一つの世界を訪れていた。
夢の中、佐藤は大きな取引所の中にいた。ここは一見、現実の取引所と何ら変わりないように思えたが、なんとなく異次元の空気を感じさせる場所だった。周りの投資家たちは熱心に取引を進めている。
「今日も大きな動きがあるな」と、佐藤は心の中で思う。彼は手帳を取り出し、夢の中の株価や取引情報を記録していった。こうして得た情報を元に、現実での取引を行っているのだ。
突如、その場に一人の男が現れた。その男は誰もが注目するような存在感を放っていた。彼の名は森田慧。佐藤は彼を初めて見るが、なぜか彼に強く惹かれていった。
「あなたは特別な人間だ。しかし、この能力はこの世界だけのものではない」と、森田は佐藤に告げる。
佐藤は驚きの表情を浮かべる。「何を言っているんですか?」
森田は微笑みながら、「今はまだ話せないこともある。だが、その能力には注意が必要だ」とだけ言い残し、消えていった。
佐藤は慌てて目を覚ました。部屋の時計は7時を指している。彼は夢の中で得た情報をもとに取引を始める準備を始めた。その際、森田の言葉が頭をよぎるが、彼はそれを振り払い、自身のデスクトップPCを起動した。
午後、佐藤は仕事を終えて居酒屋へと足を運んだ。同僚たちとの飲み会だ。彼の投資の成功話がテーブルの上で話題になる。
「最近、大輔の投資の勘がすごいよな。何か秘訣でもあるの?」と、同僚の田中が訊ねた。
佐藤は苦笑いを浮かべ、 「特にないよ。ただ、直感を大切にしてるだけさ」と答える。しかし、心の中では森田慧の警告が再び頭をよぎる。
町へ出て、佐藤は恋人の佐々木美咲と合流した。彼女は彼のことを心から信じていたが、最近の佐藤の変わりようを感じ取っていた。
「大輔、最近どうしたの?何か悩んでいることがあるの?」と美咲が訊ねる。
佐藤はしばらく沈黙してから、「実は…」と言葉を続けることができなかった。
美咲は彼の手を握り、「何でも話して」と優しく言った。
この瞬間、佐藤は夢の取引と、その能力の秘密を美咲に打ち明けるべきかどうかで葛藤していた。そして、彼の心の中で一つの決断が固まっていった。
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